FIKA(フィーカ)とは、日本でいう10時や3時の「おやつの時間」のような、スウェーデンの伝統的な習慣です。
仕事中のコーヒーブレイクとして同僚とおしゃべりしたり、休みの日に外でちょっとお茶しよう、なんていうのもスウェーデンのFIKA文化なのだそうです。
グニラさんとのFIKAのおともは、手作りの美味しいお菓子。
コーヒーのおかわりもすすみ、時間が穏やかに流れます。
グニラさんのご自宅は愛着のある北欧のものたちに囲まれて、あれにもこれにも胸がときめいてしまう。その中にはお子様がまだ小さい頃に一緒に作った飾りものや、壁に掛かったたくさんの家族写真(ご主人はフォトグラファーなのです)も混じり、肩肘張らないナチュラルな心地よさが満ちています。
日々の暮らしの楽しさを感じられる素敵なおうちの空間でゆったりと過ごすFIKAの時間。
グニラさんに教わる、北欧のこと、暮らしのこと、ものやインテリアの色々なこと。
自分らしい暮らしのためのヒントや学びを、ゆるり綴っていこうと思います。
*FIKAは日本語では”フィーカ”と表されることが多いですが、スウェーデン語の発音は”フィーキャ”の響きに近いです。
スウェーデンのミッドサマー(夏至祭)とはなんでしょう?
6月下旬、関東地方は梅雨まっただ中。
グニラさんのお宅へ伺うと、玄関横に植えられた鮮やかな青紫色の紫陽花がまずは私たちをお出迎えしてくれました。
今回のFIKAのテーマはミッドサマーです。
ミッドサマーとは夏の到来を祝うスウェーデンで開催されるお祭りのこと。(スウェーデン語ではミッドソンマルと言うそうです)
スウェーデンに住む人々にとっては、冬のクリスマスと同じくらいに大きな夏のイベントなのだそう。
待ちに待った夏を喜び祝うという感覚に共感、とまではいきませんが、以前は夏至のことを「一年で一番日が長い日」というほどにしか認識していなかった私でも、夏の北欧に何度か足を運ぶ機会を得てからはその感覚が少しわかるような気がしています。
夏至の日は世界共通で年によって変わりますが、6月22日頃です。
日本ではジメッとした湿気のジリジリ暑くなる日々が続きますが、北欧地方では夏の到来を感じさせる眩しい日差しの日が多くなります。
白夜のため22時頃でもまだ明るくて、日が昇る時間もまた早いので朝晩の気温差も穏やか。
湿気もなくテラスで朝から晩までぼーっとしていたいほど、とても過ごしやすい気候なのです。
グニラさんが子どもの頃の冬の話を教えてくれました。
「冬の間は学校に行く時間も帰る時間も真っ暗なのよね。だから、朝ごはんの後にはビタミンDを飲むのが日課だったし、授業の間の10分間の休憩時間には、少しでも太陽の光に当たるために、みんな外に出て日光浴をしなければならなかったのよ。」
日照時間の極端に少ない暗い冬の季節に耐え、5月まで続く長く厳しい寒さを乗り越えてやっと来る明るい夏。
北欧の人々にとって太陽の下で過ごせる夏の時間は、本当にとても貴重なのだと感じます。
ミッドサマーのテーブルセッティング
この日のグニラさんのダイニングテーブルの上は、スウェーデンカラーの青と黄色が鮮やか。淡いグリーンも散りばめられて、初夏らしいとても爽やかなセッティングです。外はムシムシしているので、室内に招かれて涼やかなしつらえに、まずは目が喜んでしまいます。
テーブルの主役は卓上サイズのミッドサマーポール。
その奥にはスウェーデンの民族衣装を着て踊る人々のペーパーデコレーション。
実際のミッドサマーのお祭りもこんなふうにポールを囲んで、みんなでフォークダンスを踊るのだそうです。
ミッドサマーを喜ぶ楽しいお祭りの雰囲気にワクワクします。
庭の小さな花々と一緒に花瓶に飾られているのはディルの花。
繊細だけれど大きな丸いシルエットがパッと目を引きます。
ディルはスウェーデンの食卓には欠かせない風味付けの薬草ですが、花の部分をこんな風に飾りにも活用できてしまうなんて、グニラさんのアイディアは自由で素敵です。
自宅で楽しむミッドサマーのデザート作り
さて、今回の楽しみなFIKAのおともはロールケーキだそう!
「スウェーデンではこの時期がイチゴの美味しい季節なのよ。だから今日もロールケーキにイチゴを使おうと思ってスーパーマーケットを2軒も回ったんだけど、見つけられなかったの。日本のイチゴのシーズンはやっぱりもう過ぎちゃってるからよね。」
と、グニラさんはケーキの生地を天板に流し込みながら教えてくれました。
ミッドサマーのデザートには、スウェーデンではこの時期が旬のイチゴ、と決まっているのだそう。
「それでね、どうしようかなと思ったけれど、代わりにこんなのもアリかな?と思って、これを買って来てみたの。」
と楽しそうに笑いながらグニラさんが見せたくれたのは、イチゴ味のコアラのマーチ!
「ピンク色で可愛いでしょう?ケーキの上に載せたらいいわよね?」とニッコリ。
あれがない、よりもこれを代わりにしたらいいじゃない、と自然に考えられるグニラさんの発想に胸がキュンとします。
四角く構え過ぎずに自分なりにラクに暮らしを楽しむ、ってこういうところ。
焼きあがった生地に手作りのイチゴジャムをたっぷり塗って、グニラさんは手際よくくるくると巻いていきます。
巻き終わった表面には、いつの間にか仕込まれていたココナッツフレークがまぶされていて思わず、わあっと小さな歓声が出てしまいます。
「ココナッツはね、別になくてもいいのだけど、このほうがお洒落になったわよね。」
いくつになっても、こんなまっ直ぐな気持ちでおもてなしがしたい。
相手と自分がいっしょに楽しく過ごす時間のために。
グニラさんのロールケーキからは教わることばかりです。
ケーキのロールは厚めにカットして、上にはたっぷりの生クリーム。
サービス精神旺盛なグニラさんは、いつも嬉しそうにたっぷりと生クリームを絞ってくれます。
それだけで、自分で絞るより何倍も美味しそうに見えてしまうのはなぜでしょう。
仕上げにクリームの上にイチゴ味のほんのりピンク色のコアラのマーチを載せて、完成です!
FIKAでミッドサマーを楽しむ!
さあ、主役のロールケーキをいただきます。
焼きたてのふわふわな生地がとっても優しい美味しさです。
テーブルの上にはよく冷えたヨーグルトケーキ(夏の間はよく作るそう)や、キャラメルクッキーまで並んでいます。
取り皿までミッドサマーなFIKAが始まりました!
このお皿のセットは、おばあさんからグニラさんが受け継いだもの。
取り分ける前のロールケーキが盛られていた大皿にはスウェーデンと書いてあり、代表的な青と黄色のスウェーデンの民族衣装を着て踊る親子が描かれています。
取り皿のほうにも町や村の名前が書いてあり、それぞれの地方独自の民族衣装を身に付けた人々が描かれています。
民族衣装と一口に言っても、スウェーデンでは町や村によって色や柄にさまざまな違いがあるのだと知りました。
描かれた人々はダンスをしていたり野菜を採った帰り道のようだったり、スウェーデンの夏のワンシーンが切り取られているのだと感じます。
愛らしい草花模様で縁取られているのも、お花のベストシーズンであるミッドサマーにピッタリです。
可愛らしいスウェーデンの手作り民族衣装
ロールケーキを頬ばりつつ取り皿の絵柄を見比べながら、グニラさんの育った町の民族衣装はどのようなものだったのかを尋ねてみると、なんと一着お持ちということで、見せていただけることになりました。
針仕事ではセミプロの腕前を持つ叔母さまが作った、それを譲り受けたものだそう。
スカートとブラウス、それにエプロンとベスト、付け襟に帽子まであります。
この民族衣装はグニラさんの育った町のお隣のご両親が生まれた町のデザインで、やわらかな白、赤、ピンク色のカラーコーディネートになっています。
グニラさんがこの衣装を身につけ、娘さんの結婚式に参列した際の写真も見せていただきました。
正装としても使える民族衣装というところでは、日本の着物と同じようなものなのかもしれませんね。
それぞれのアイテムがとっても可愛らしいスウェーデンの民族衣装。
帽子、被らせてもらっちゃいました。
森で木の実や花を摘んだり、外で踊ったりしても、洗える丈夫な木綿の素材であったり、自然の景色に馴染む素朴な色合いというところも、スウェーデンらしい気がします。
赤ちゃんからお年寄りまで似合いそうなレース付きのデザインにほっこりしちゃいます。
我が家のミッドサマーポールの思い出
ミッドサマーのお祝いに欠かせないミッドサマーポール。
メイポールやスウェーデン語でマイストング、ミッドソンマルストングとも呼ばれています。
町の集会所の周りや公園にミッドサマーポールを立てて、人々はその周りを囲んでフォークダンスを踊り、ミッドサマーをお祝いします。
お祭りが終わると、ポールから飾りの草花を取り、横に倒した状態のまま保管します。そしてまた次の夏に、再び白樺の葉と季節の野花でポールをデコレーションして使うのです。
そんなミッドサマーポールを手作りしてお庭に立てるご家庭も多いようです。
グニラさんのお姉さんのご家族が作ったのは、大人の背丈ほどの高さのもので、子どもたちで飾りつけをしていたそうですが、そういうシーンは故郷の良い思い出のひとつになるのだろうなあと感じました。
大きいポールを立たせる時は、写真のように大勢の大人の男性が少しずつ立たせていきます。
「最初は子どもたちも一緒にみんなで手伝った後に、大人の男の人たちが頑張ってウーンウーンと引っ張るのだけど、何10メートルもあるような大きなポールだと、ちゃんと最後まで立たせられるかどうか、ドキドキして見ているのが楽しかったのよ。」
そう教えてくれるグニラさんの顔からは、楽しかった思い出が伝わってきます。
ミッドサマーの夜のロマンチックな言い伝え
スウェーデンのミッドサマーには、こんなロマンチックな言い伝えも。
野外でダンスを踊るミッドサマーの夜、家に帰る前に野の花を7種類摘んで、それを枕の下に敷いて寝ると、将来の結婚相手を夢に見る、というものです。
必要な花の種類は7種類のところも9種類のところもあるようで、地域によって伝わり方は違うようです。(ノルマは少ない方が達成が楽ですね)
グニラさんはどんな夢を見たのでしょうか?
「私の夢は真っ黒だったのよ。おかしな夢、と思っていたけれど、あれは日本人の夫の頭の後ろ姿だったのね。出会った頃は髪も黒くて量も多かったから。やっぱり当たるのね!」とグニラさん。
お茶目なグニラさんトークには大盛り上がりしてしまいました。
ミッドサマーお天気アルアル
ミッドサマーではあまり晴れることがない、と言われるほど、お祭りの日のお天気はいまいちなことが多いそうです。
「いい天気だと、あれ?今年はいい天気なの?!と驚くくらいよ。」とグニラさん。
日本の夏至の頃では、雨が降ると余計に蒸し暑くなってしまいますが、湿気のないスウェーデンでは、太陽が隠れてしまうと結構寒いのだそうです。
晴れていて気持ちよく過ごせる時期なのに、お天気は気まぐれですね。
娘さんが小さい頃にミッドサマーに参加した時には、可愛いワンピースだけではとても寒くて、ズボンやカーディガンも一緒に着せたくらいよ、という思い出話も。
それでも無理矢理にでも必ず屋外で食事をして、ダンスをしてお祝いするのだそうです。
ミッドサマーのディナーメニュー
今年の夏至の日は外のテラスで食べたのよ、と言ってグニラさんがスマートフォンに残したミッドサマーディナーの写真を見せてくれました。
「ミッドサマーの食事は新じゃがいもがメインかもしれないわね。ディルと一緒に茹でたのよ。」
ヨーロッパ圏では主食のじゃがいも。
日本人が毎年、美味しい新米を楽しみにしているのと同じように、旬の新じゃがいもを食べられることはミッドサマーの楽しみのひとつなのですね。
じゃがいもの他には、IKEAで調達したサーモンとニシン、それからローストビーフにサラダ。
この日はスーパーでイチゴも手に入ったので、デザートには念願のイチゴも食べたそうです。
すべてが手作りではなくても、買ってきたものも、少しの手間をかけて器に盛ってテーブルセッティングをする。
「そうするだけでも気分が違うでしょう?」とグニラさん。
器にもこだわりのあるグニラさんだからこそかもしれませんが、日々の暮らしの中での力の抜きどころ、力の入れどころ、勉強になることばかりです。
日本の夏を自分らしく楽しむ
夏の夜のお祭りで民族衣装を着て、皆で踊る。
スウェーデンのミッドサマーのお話はすべてが新鮮だったのに、浴衣を着て盆踊りをした夏祭りの楽しかった記憶がよみがり、懐かしい気持ちも込み上げてきました。
「I believe in Summer!」
ミッドサマーを歌う曲の歌詞を解説してくれたグニラさんが言っていました。
梅雨、湿気、酷暑と、日本の夏は大変なところもあるけれど、夏を信じるマインドがあれば、工夫しながらこの季節をもっと楽しめるような気がします。
ミッドサマーを彩るイチゴのロールケーキの作り方
グニラさんから教えてもらった今回のFIKAのおとも「イチゴのロールケーキ」のレシピをご紹介。
(今回はイチゴの代わりにイチゴ味のお菓子を添えて)
材料 卵 3個 小麦粉 200cc 重曹 小さじ1 砂糖 150cc イチゴジャムまたはコンフィチュール お好きなだけ 生クリーム お好きなだけ(多めが美味しい!) イチゴもしくは代用のお菓子 上に載せる分 ココナッツフレーク お好みで
作り方 ① 卵と砂糖をボウルに入れ、ふわふわになるまでよく混ぜる ② 小麦粉と重曹を混ぜて、①に加え混ぜ合わせる ③ 250°に予熱したオーブンで5分焼く ④ お好みで生地の表面にくる側にココナッツフレークをまぶす ⑤ 生地が温かいうちに、内側にくる側にイチゴジャムなどを塗る ⑥ 巻き上げたら、巻き終わりを下にして少し冷ます ⑦ 5cmくらいの厚めにカットし、生クリームを絞る ⑧ 生クリームの上にイチゴやイチゴ味のお菓子を載せて完成!
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